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DAISUKE OBANA INTERVIEW

STUDIOUSではもちろん、世界でも多くの支持を誇り、違いなく東京を代表するブランドの1つである「N.HOOLYWOOD 」。同ブランドのデザイナー尾花大輔氏にインタビュー。
長年、「N.HOOLYWOOD」定番のアンダーウェアラインとして世界に多くの愛用者がいる「UNDER SUMIT WEAR」について詳しく伺った。
他では語られない箱の誕生秘話やディテールへの想いなど、同氏が「定番」を語る。

今期(2020SS)は従来のコレクションに比べ、UNDERCOVERさんをはじめ、コラボなどのキャッチーなアイテムが多かった印象です。
特にコラボについての意識はしていませんでした。いろんなお話もあったのと、今シーズンに必要だったからというのが一番の要因で、気付いたらという感じです。どちらかというと今までは、できるコラボもそのシーズンに合わなければやらないと言った感じで、自分の中で厳しいレギュレーションを設けておりました。
しかしそうすることで、良いと思ったクリエーションの妨げになったり、自由を奪われたりしたこともあったり。 何年も突き詰める中で、点と点をつなぎコレクションとして集約し、最後に開放する様なクリエーションのやり方が自分にとって新しいプロセスとなりました。今期というよりも3シーズン前ぐらいから徐々にそういった方向性が強くなっていますね。
自分も年齢を重ねてきて、着やすい洋服づくりだったり、あとは先に述べたような何か縛りによって広がりがなくならないようなクリエイティブを目指しているのだと思います。
旅で見てきたいろいろなものを一つの形に全部かき集めて、自分なりに咀嚼して提案するのが最近の僕のコレクションですね。


今回、印象的だったのがSUNSPELさんとのコラボなのですが、ブランドとしても個人としてもTシャツに対して強いこだわりを感じていて、その背景もお伺いできればと思います。
確かに象徴的なアイテムかもしれないですね。SUNSPELは英国の肌着メーカーとして歴史のあるブランドです。英国はトラディショナルな国ですが、何かを壊していくことでファッションが生まれたりしてきた背景もあるじゃないですか。表側は縫い代とかをそのまま切りっぱなしの状態で表現し、これをひっくり返すとベーシックな表情になるという、いわゆる歴史とそれを破壊した二面性みたいなものが一枚のTシャツの中で集約できたのが一番の理由かもしれません。
あとは自分が一番得意としている肌着、カットソー、アンダーウエア、こういったところとの関係性もあるんではないかとは思っていますが。



今、仰られていたようにカットソーとしてだけでなく、肌着というイメージもあるのですが、そういった想いも関係しているのでしょうか?
想いかどうかは別として、自分の育ってきたファッションでの環境が大きいのかもしれませんね。高校の時、洋服屋のアルバイトの面接に、HANESの無地の白Tを着て、ヴィンテージデニムを穿き、チャックテイラーか何かを履いて、意気揚々と面接に行ったのですが、そこの社長に「質問ありますか?」と聞かれ、「強いて言えば、何かしてはいけない服装ってありますか?」と答えたら、「君が今日着ている格好は駄目だ」って。(笑)この時自分は「あー、落ちたんだな」と思ったのですが、 どうせ落ちたんならと思い「何でなんですか?」って聞いて。
「君が格好良くその白いTシャツとヴィンテージデニムとかで穿いていたら、他の洋服が売れなくなるだろう」って言われて、「なるほど」と当時は思いました。「かっこ悪いとは言っていないんだから。売れなくなるからその格好はやめてくれな」って言って、結果採用していただいたのですが。 それがいまだに自分の中では印象的で。アパレルのスタートが肌着への注告って、縁があるなとは思いますが。(笑)





そのエッセンスが入って凝縮されたものがプロダクトとして出ているのでしょうか?
そうかもしれないですね。話は少し違うかもしれませんが、定番の商品などでよくあることで、当然、自分はどんどんクリエイションが進化していくけど、お客様の中では好きなものって変わらないものも絶対あるじゃないですか?
デザイナーが飽きたことと、お客様が飽きるっていうことは全く別物ですからね。だから、そこはすごく冷静に見ていて、「もういいんじゃないかな」って思うようなものでも、お客様がどのぐらい支持して頂いているかはすごく重要。それにはちゃんと応えようと思っています。
応えていく中で、車のマイナーチェンジとかに近いというか、飽きたから変えるっていうことよりも、「じゃあ良くしよう」みたいな、改良は続けています。特に定番と定義するアイテムに関しては感覚で物は絶対作らないようにしていますね。

そういった形でこのUNDER SUMMIT WEARのシリーズもできたんですね?
多分もう13年前ぐらいから始まっているんじゃないかな。そのタイミングでこれが最初の引き出しの箱の見本です。何の箱だかよく分からないんですけどね。フランスの蚤の市で買った様な記憶が。


靴箱に取っ手を付けたんですか?
そうですね。(笑)これを基にして一番最初の箱を作ったんです。多分うちのスタッフも初めて見たと思いますよ。(笑)「こういう柄が付いたようなものが作りたいんだよね」って言って、自分でカスタムしたのが始まり。この箱のコンセプトで、アンダーウェアの大きさ別に合わせて4種類のサイズの箱を作り、全部きれいに重なって置けるユニット的な発想で作ったんです。
なるほど。何故このような箱を作ろうと思ったのですか?
自分の中でも想いがあって、肌着ってどうしても安いイメージになっていると思うんです。でもさっきの箱とかがお店に山積みにされていると、それ自体がオブジェであり、コマーシャルにもなって、すごく象徴的な存在になる。あと、お買い上げいただいた後に、色々な物の収納に使えたりと、多様なイメージを持ってもらえるかなと思って作りました。ただ、この箱で売っていた頃は正直、赤字でした。(笑)
  
この箱代が?
ハイブランドですら、輸送の為にコンパクトにたためる仕様がほとんどですが、かなり拘った、完全フィックス仕様だったので、卸すときにこの空箱だけでも送料と場所を取るし、頑丈だけど傷つけば返品で非効率。海外の卸には、売れば売るほど赤字的な。(笑)
グローバルにやるには全く適していない上に、お客様からは「持ち帰りが大変だから、その箱は要りません」って方も当然いたりして。(笑)じゃあ、どうしようとなってこの箱ができました。
バンカーズボックスといわれるFellowesのこの箱。もともと昔は銀行なんかの書類整理で使われる箱であったり、今ではセンスの良い収納ボックスの代名詞的存在。実はある企画で定番の703というこのシリーズで、N.HOOLYWOODデザインのものを作る事になり。1カ月のスケジュールが書き込めるカレンダーだったり、センチ・インチのメジャー表とか、箱そのものがメモ代わりになる「703-NH」というバージョンでリリースされました。
そして当時、Fellowes本国からも高く評価して頂きました。
すごいですね
それで、話を戻すと、この箱(オリジナルの初代の箱)だとさっき言った様な、色々な部分でのデメリットがあったので、ちょうど模索していたタイミングでした。そんな時にFellowesさんから「前回以上の何か新しいプロジェクトを一緒にやってみたいのですが!」というオファーを頂き、この箱ができる訳です。
1枚のフラットであれば輸送やお客様も持ち帰るときに大変じゃないし、アンダーウエアはもちろんの事、手紙やA4、レターサイズの紙も入れられ、スタイルを分けないで今の時流に合った箱の在り方を追究しました。
そして「703-NH」のコンセプトを生かしながら、フルオリジナルで製作したのが「879-NH」この現行の箱。 ヴィンテージの箱から始まった贅沢な仕様の箱から、こういうコンフォータブルなものに変わっていく。このように時代やマーケットと共に変えていくのも僕らの務めでもありますしね。簡素な作りで、多様性のあるボックスが出来て、本当に嬉しかったなぁ。
歴史を感じます。

ギフティングのときに、箱に仕上げてプレゼントもいいだろうし、当然組み立てる前の状態でプレゼントするのもいい。おそらくもらって嫌じゃないと思うというか。 しかし、蓋の持ち手部分の構造を編み出すのが大変だった。この仕組みも全部考えて作ったんですよ。
    
全部「N.HOOLYWOOD」側でですか?
図面とかも全て考案しましたよ。こういう事考えるのは、全く苦でないというか。(笑) 因みに、ここにバンカーズボックス「879」という数字があるんですが、
(携帯電話のキーパッドを見せながら)
8にはU、7にはS、9にはWとなり、合わせて「879」。すなわちUSW(アンダーサミットウエア)になっているという、海外では広告などで電話番号をサッと覚えてもらいたい為によくあるポピュラーな語呂合わせというか。

     
なるほど。何の数字だろうと思ってました。
なので品番が879。この品番とデザインはうちだけにしかないバンカーズボックスになるので、逆を言えばこれだけでは売っていない。これが欲しい人はどのみちこっちのアンダーサミットを買うしかないというか。(笑)
  
特別な箱ですね。話は変わりますが、象徴的なピスネームはどういう経緯でついたのでしょうか?
これはもともとアメリカの医療用の作業着なんかでこういうタグの付け方をしているユニフォームが存在しており。アメリカの映画とかで医療現場なんかで、多分出てきますよ。
当時、自分もこれだけ大きなブランドになることとかは全く想定もしていなかったのもあるけど、何か自分なりに格好の良さと同時に、ブランドのアイコンになるものが欲しいなって、その時は思ったのでしょうね。
ジャケットの袖にも同じようについていますね。これは外すべきなのかお客様からよくご質問されるのですか?
スーツとかって昔から百貨店だと、ラックいっぱいに吊るして展開していて、どこの何のブランドか、ひと目で分からない。だから袖の所に分かりやすいように「何の生地を使っています」みたいなタグを縫い付けているんです。そのニュアンスをデザインとしてスーツラインには袖にタグを付けてます。
もちろん、外さないことによってうちのブランドの服を着ているっていう、タギングの効果も狙ってはいますが。これに関してはお客様次第かなと。ただ、大体の人は外さないですし、自分も外さないで着ていますよ。
   
最後に、お客様に「N.HOOLYWOOD」のアイテムをどのように着こなしていただきたいかをお聞きできればと思います。
何か僕たちのベースになるアンダーウエアシリーズの上に1枚羽織るみたいな。要はそのレイヤードを考えなくても着られるような洋服というか。例えて、一瞬難しそうに見えるデザインのものも、袖を通せば非常に着やすい洋服だと気づくはずです。だから、毎日でも着やすい。
是非我々の商品なんかと一緒にサラッとお持ちのワードローブとかと合わせていただけたらと思います。ちなみに、USWをここまで深くお話ししたのは、このインタビューが初めてだったかも。(笑)
     
デザイナープロフィール
尾花大輔(おばな・だいすけ)/「N.HOOLYWOOD」デザイナー:1974年生まれ
学生時代より古着屋からキャリアをスタートし、ショップマネジャーやバイヤーを務める。その後古着のセレクトショップ、“go-getter”の立上げに携わる2000年にショップ「Mister hollywood」をオープン。2001年にメンズブランド「N.HOOLYWOOD」を立ち上げて本格的にコレクションをスタート。10年からはニューヨークでコレクションを発表。